F1日本グランプリ4つの課題
上甲哲洋
ホンダモビリティランド株式会社 ビジネスマーケティング部部長
2023-2024 F1日本グランプリ大会組織委員長
1962年に本田宗一郎が「製品を磨く実験場」として鈴鹿サーキットを開業したのがホンダとF1の原点です。モータースポーツを通じて自社技術を高めると同時に、サーキットに併設した遊園地でのイベントや体験プログラムを通してモビリティ文化の発信に取り組んできました。
ホンダはF1グランプリには1964年に参戦を開始しました。幾度か不参加の時期を経て、現在はチームにPU(パワーユニット)の技術支援をする形で関与しており、2026年からアストンマーティンにPUを正式に供給することが決まっています。
現在、F1は世界的な盛り上がりを見せています。2017年にアメリカのリバティメディアがF1グランプリの商業権を44億ドルで獲得しました。以降、SNSでのライブ配信やファン投稿の解禁、Netflixドキュメンタリーによる舞台裏公開など、若年層や女性ファンを着実に増やしています。Apple制作映画「F1」が公開されるなど、世代や国境を越えたファンエンゲージメントを強化中です。
日本グランプリは2029年まで我々ホンダモビリティランド(株)が鈴鹿サーキットで開催することが決まっています。最高110万円のVIP席から1万6千円の観戦券まで幅広い指定席の開発や、インバウンド対応を強化、唯一の日本人F1ドライバー角田裕毅選手への期待感もあり2025年は3日間で26万人超の来場者を実現しています。
今後の日本グランプリ運営は4つの課題があります。1つ目は「将来のファン育成」です。今は多くの観客で賑わっていますが、平均年齢の高まりとインバウンド依存の進行を懸念しています。お台場で行った「F1東京ファンフェスティバル」など都市型イベントを通じて潜在層を育む必要があります。2つ目は「サステナビリティ」です。F1は2030年にCO2排出量ゼロを達成すると宣言しています。施設内への太陽光パネル導入やファンの低炭素移動・輸送、フードバンク連携、地域・教育機関との協働など、多面的な環境・社会貢献策を加速させる必要があります。また、この取り組みにより3つ目の「国内企業との協業強化」が促進すると考えています。日本グランプリ中のビジネスカンファレンスや共同研究プログラムの提案、ROIの可視化により、長期的パートナーシップを構築することで、日本企業のスポンサー参画が少ない現状を打破したいと考えています。4つ目は「デジタル化推進」です。従来のアナログ運用を見直し、事前予約・キャッシュレス決済の導入やアプリによる情報発信で観客体験を向上させ、ブランディング効果を高めます。
F1は最先端技術の集合だと思います。国内の様々な知見が集まる日本グランプリを皆さんと一緒に実現して行きたいです。